音楽編集と私 その1

それはまだモジプールが結成される前の話。


僕は土屋先生と2人で、

ビール帝国という名の、

今振り返ってみても飛び抜けて

奇抜なバンドを組んでいた。

(ビール帝国は、

ライブの曲中に成人男性が缶ビールを

ひたすら飲み干すだけの

おそらく業界初となる演出、

ビールソロを考案した

知る人ぞ知るバンドだったが、

本筋から著しく脱線するため、

この話は断腸の思いで割愛させていただく)


事の経緯の記憶は不鮮明だが、

或る日、土屋先生から

"好きに使っていいよ"と言われ、

スタインバーグUR22

同梱されていた音楽編集ソフトの

cubase AI7を授かり、

僕は音楽編集の道に足を踏み入れる。


僕が恵まれていたのは、

編集すべきオリジナル曲が

膨大にある環境に身を置いていたことだ。

最初のうちは、

機材の使い方も分からないまま

自分の感性を頼りに編曲した。

編曲する上での僕の価値基準は、

楽曲を良質な音質に仕上げることになく、

楽曲が僕のアレンジにより、

作曲者の抱く楽曲イメージに

如何に近付けるかにあった。

それ故に、

僕は楽曲の歌詞を読み込み、

楽曲のイメージに齟齬がないか、

土屋先生とのすり合わせを

入念に繰り返した。

(業界的に言えば、

これはクライアントとの

打ち合わせに該当する)


また、僕たちの楽曲制作過程は、

音源の電子データを

メンバー宛にメール送信して意見を伺い、

メンバーから寄せられる注文に沿って

僕が再編集に取りかかるというものだが、

その制度設計も、

意図せず僕の血肉となった。

どのようなかたちであれ、

成果品を出さないと、

話は前に進まないのだ。

僕はこの繰り返しにより、

"とりあえず楽曲を完成させる力"

を獲得した。


勿論、とりあえずの成果品に

到達するまでには、

トライ&エラーの無数の山があり、

僕は遮二無二それらを駆け上がった訳だが、

そのことは誰も知らないし、

知ったところで誰も得をしない。


そろそろ話をまとめよう。

僕の音楽編集技術の大部分は、

体験的会得により構築されている。

その結果、

教則本を読んでも、

"それは著者の正解だろう。

僕の正解とは違う"

平気で言ってしまう

偏屈な人間を誕生させてしまった。


生まれてきてすみません。



(次回予告)

音楽編集ソフトという

大人の玩具に取り憑かれた僕は、

狂気の世界へと誘われていく。

次回

"そっか!寝なきゃいいじゃん!"

お楽しみに。



BGMThe BeatlesHello, Goodbye