令和2年1月10日報告書

僕たちはアルコールジプシーの

活動拠点をついに突き止め、

三度目の潜入捜査を敢行した。

付け加えて、

今回は未だかつてない

特殊任務を命じられている。

それは、彼らに奪われた

僕たちの記憶を奪還することだ。


この目的を完遂するため、

アルコールジプシー討伐隊が結成された。

極秘任務につき、

討伐隊には少数精鋭が揃えられ、

僕は、全国で5人しかいない

特級討伐員のひとり、

土屋特級討伐員と

先発隊を組むことになった。


僕たちは拠点近くに陣を張り、

現地で合流予定の

もうひとりの特級討伐員の

到着を待っていた。

拠点潜入時刻が近づくにつれ、

えも言われぬ恐怖と重圧により、

自分の足がすくんでいることに気付く。

土屋特級討伐員に

そのことを悟られないよう、

(そろそろ行きましょうか)

声をかけようとした刹那、

土屋特級討伐員が呟いた言葉を

僕は聞き逃さなかった。

(楽しみだ)

彼は戦いの中で生きてきたのだと、

僕は直感的に思った。


僕たちは、

アルコールジプシーの拠点とおぼしき

鉄板焼き屋を目指して歩き出した。


19:15 先発討伐隊 現着


19:20 廣川特級討伐員 現着


2人の特級討伐員に

おくれを取らないよう、

店に入り、臨戦態勢を整えていると、

僕はいつの間にか自宅の居間にいた。

またしても記憶を奪われたのだ。


僕が覚えている唯一のことは、

討伐隊がグランメゾン東京の

ワンシーンを再現し、その後、

丁度良いタイミングで、

(君のため〜)とドラマ挿入歌を

歌い上げるところまでのパートを

何度も繰り返していたことくらいだ。


居間のテーブルの上には、

飲みかけの缶ビールと

何処かで調達したカルビ弁当の

空箱が無造作に存在していた。


そして僕は実感する。

ミッションは失敗した。

世界の変革は実現されることはなかった。

しかし、

古くから語り継がれてきた英雄譚が

そうであるように、

この討伐記録も、

光が闇を穿つ話であることを知る。


土屋特級討伐員から、

僕の無事を確認しようとする

1通のメールが届いていた。

2人の特級討伐員は任務を完遂したのだ。

そして、きっと彼らは、

希望を持ち帰ったに違いない。

僕は、今にも落ちてきそうな

朝焼けの空を眺めていた。



BGM:宇多田ヒカル『誰かの願いが叶うころ』

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コメント: 3
  • #1

    つち (日曜日, 12 1月 2020 09:11)

    なんやねん!めっちゃ笑ったわ!最高すぎや!あー!ひさし隊員、最高!(*⁰▿⁰*

  • #2

    ひろ (火曜日, 14 1月 2020 00:16)

    なんやねん!!(笑)進撃の巨人か!!ミッション失敗しすぎや!!てか、5人に意味があるのか気になるわ

  • #3

    おく (土曜日, 25 1月 2020 10:50)

    あはは(笑)めっちゃ笑った。5人しかいない特級討伐員が2人も!!
    そして、ミッション失敗は必須だな!(笑)