まだ修行が足りない

冬の風が一段と強くなった或る日、

僕の敬愛するギタリスト、

長岡亮介先生のインタビュー記事が

Guitar magazineに掲載されている

という情報を聞きつけ、

僕は一目散に書店へ走った。

しかし、僕が手にした雑誌には、

そのような記事は存在しなかった。

全てのギターキッズがそうであるように、

僕は彼のギタリストとしてのルーツ、

フレーズアプローチの手法、

日々の練習方法など、

それらの全ての真似をして、

自身で構築した理想形へ

近づきたいと思う欲求に逆えずにいた。

諦めきれない僕は、

記事の詳細を調べてみる。

すると、

長岡先生の記事掲載誌は、

当該別冊号にあることを突き止めた。

僕は血眼になってそれを求めた。

そして、ついに僕は到達した。

僕は高鳴る胸を抑え、

その雑誌を手にした。

次に、

長岡先生のおわせられるページに

視線を走らせる。

と同時に、僕は愕然とした。

なんとその記事には、

ギターに関する話題は一切なく、

長岡先生の愛車遍歴を

堂々と2ページにわたって

お話しされておられたのだ。

その記事の内容は、

愛車の美しいフォルム、

エンジン音とモーターの回転数の

話題に始まり、

最終的に、

(ギターより車の方が好きです)

という謎の発言で締め括られていた。

長岡先生は、

僕がまだ修行が足りない

ということを示唆されておられるのだ。

もっと高みに登らないと

音楽の話さえしてくれない。

これは基礎練習からやり直しですな。

その夜、

僕は誰にも知られることなく、

晩酌で日本酒2合をあけたことは、

言うまでもないだろう。

BGM：Nirvana『Heart-Shaped Box』