僕の海外旅行記3

ドルフィンツアーの集合時間は朝9時。

タモン中心地のホテルのロータリーから

ツアーバスに乗り込み、

およそ半時間ほどで

専用のクルーザーが停泊している

港に到着する行程だ。


ツアーバスの車内は、

日本人観光客で満たされており、

興奮を抑えきれない乗客の会話と

現地の女性バスガイドの

片言の日本語が飛び交う中、

バスの窓越しに見える風景に

僕はある違和感を感じていた。


街のメインストリートにも関わらず、

郊外に進むにつれて、

歩行者が見当たらなくなっていく。

旅行客はおろか現地の人さえいない。

『主な交通手段が車だとしても、

みんな徒歩の移動はしないんだな』と

僕は何となく考えていた。


途中、謎の駐車場で

これまた謎のバスの乗り換えが行われた。

その駐車場の一角に

公衆トイレの標識を発見したので、

バスガイドにトイレに行っても良いかと

尋ねてみたが、ダメだと言われた。

何故ダメなのかと質問をすると、

あと15分で目的地に到着するので、

それまで待ってくれと答えるだけだった。

質問に対する回答になってないが、

僕のせいでツアーの行程に

支障をきたすといけないと配慮し、

僕は目的地まで

用を足すのを我慢することにした。


目的地の港に到着したので、

港の駐車場に設置されている

公衆トイレに行こうと思い、

バスガイドにそのことを告げると、

クルーザー内のトイレを

使うように指示をされた。

僕の膀胱が限界を迎える予感がして、

こっちの方が近いよ?

と問いかけると、バスガイドは

妙におどけてみせたりしながら、

早くクルーザーに乗るよう、

愛嬌たっぷりにお願いをしてきた。

バスガイドが可愛いらしいので

これは仕方がない。

僕はクルーザーに向かって走り出した。


それでも僕は、イルカを追う船上で、

溢れ出る思考を止められずにいた。

(僕は根っからの分析者だ)

絶え間ない僕の脳の活動は、

ドルフィンウォッチング終了後も続き、

その終幕は海水浴を終えた直後に

突如として訪れた。

散在していたいくつもの思考の点は、

次第に連結してひとつの軌道を描き、

それらが線となって僕にある解釈を与えた。


アメリカは銃社会だ。


郊外では、現地の人が

外に出歩けないほど

治安が悪いのではないか?

華やかな繁華街とは裏腹に、

郊外ではスラム化が進み、

たとえ日中であったとしても、

犯罪に巻き込まれる可能性が

きわめて高いのではないか?

僕はそのことに対して

少し怖くなるのと同時に、

飲酒に対する容赦のない規制について

心から納得することができた。

そして当然のように、

僕は急に日本が恋しくなり、

日本で『安全に』泥酔したくなった。


僕のこの解釈は、手前勝手の

根拠のない憶測に過ぎない。

ただ、僕がひとつだけ言える確かなことは、

バスガイドの女性は、

とても良い人だったということだ。


僕の旅行気分を害することなく、

なおかつ僕が犯罪に巻き込まれないよう、

最大限の配慮をしてくれていたのだ。

ひいては乗客全員が

安全にツアーを楽しめるように。


僕は銃社会に属しているグアムが怖い。

だが、親切で優しい人の多い、

常夏の自然に囲まれた、

美味しい肉や酒のあるグアムが好きだ。

犯罪の原因は社会構造にあるのか?

生きるためにやむを得なく犯罪に

手を染めてしまう人がいるのだろうか?

僕はまた考え始めてしまい、

グアムに対して、僕が

どういう感情を抱いているのか

整理がつかなくなってしまった。


考えることに疲れ果てた僕は、

その夜、ホテルの部屋で

地ビールを浴びるほど飲んで

闇に渦巻く思考を忘却することにした。

よくよく考えてみると、

日本でも深夜に出歩くと

犯罪に遭う可能性は高まるものだし、

今回の旅行の目的は、

哲学的思考に耽ることではなく、

家族とバカンスを楽しむことだ。

そのために、ここに来たのだ。

酔い潰れたのが先か、

睡魔に襲われたのが先か、

どちらか判断のつかないまま、

僕はいつの間にか眠りについていた。


その翌日、僕は I Love Guam

とプリントされたTシャツを購入した。

うまく説明することが出来ないが、

何かを愛するということは、

光と影の両面を受け入れる、

きっとそういうことなのだ。



〈次回予告〉

グアム滞在最終日を目前にして、

僕はついに念願を成就させることになる。

次回、最終章『ひとりでできるもん』

震えながら更新を待て。



BGMLady GagaGypsy(Acoustic Ver.)

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コメント: 2
  • #1

    ひろ (土曜日, 04 5月 2019 09:46)

    ひとりでできるもん!?震えながら待つ!!

  • #2

    つち (土曜日, 04 5月 2019 09:58)

    グアム編も面白い!更新が早いのも魅力!震えて待つ!でっきるっかな♩でっきるっかな♩はてはてふふーん♩しかし、日本では当たり前な、安心の大切さに気づけるなんて良い経験だな。(*⁰▿⁰*